カーネギーホール用の仕事着

今年も毎年恒例のメトロポリタン・オペラ・オーケストラのカーネギーシリーズが5月の終わりから6月頭にかけて行われました。

普段はステージ下のピットの中であまりよく見えないところで奮闘しているオーケストラをスポットライトの中で見られる年に一度のチャンスです。

オペラオーケストラの強みはフレキシビリティと音色をブレンドするため歌手やオケ内でお互いをよく聞き合うことにあると思います。普段プッチーニ、ヴェルディ、ワーグナーなどの作品ばかり演奏しているからマーラーやメンデルスゾーン、シューベルトはあまり慣れていなそうですが、オペラオーケストラならではの才能で素晴らしい演奏をこなします。また、オーケストラの団員さん達は普段歌手の伴奏ばかりしている暗いピットから這い出してステージで脚光をあびることをとても楽しみにしています。

3公演、3人の異なる指揮者のもと、それぞれのプログラムが演奏されましたが、私がいつも楽しみにしているのはジアンドレア・ノセダ氏の指揮です。「ノセダ」と聞くと日本人のような名前に聞こえますが、イタリア人です。ノセダ氏はマーラーの交響曲第5番を指揮。リハーサルでは持ち前のユーモアを交え、団員と和やかな雰囲気を保ちながらも、ものすごい集中力とエネルギーにあふれた指揮で本番の演奏へ導きました。こんなにインスパイアされる指揮者は大勢いません。私はこのオーケストラではエキストラなので必ずしもカーネギーホール公演に参加できるわけではないので、とても幸運に感じました。

ところで、音楽家の仕事着ですがステージ上で演奏する場合と、ピットで演奏する場合黒は黒でも女性のドレスコードが少し異なります。ピットの中では特に高価な服を着る必要はなく、パンツも良し、スカートも良し。スカートの長さも膝丈か、それより長ければOK。寒い冬にはブーツを履くのも許可されています。しかしお客様に丸見えのステージ上ではそういうわけにはいきません。メットのオーケストラがカーネギーでコンサートを演奏するときは女性はドレス、または足首丈か床丈のスカート着用必須。近年ワイドパンツは許可されるようになりましたが、普通のパンツは禁止。普段、家から着ていけるような黒服ばかり着用している団員にとっては結構めんどうなのですが最低1〜2着はカーネギー用のフォーマル服をみんな持ち合わせています。

 カーネギーホール、舞台裏にて。

カーネギーホール、舞台裏にて。

私もそのような黒服をちゃんと持ち合わせているのですが、今年は妊娠しており、普通の洋服は着られないため、どうするか少し悩みました。マタニティのフォーマルの黒服をどこで見つければ良いのか?また、1〜2回来て終わりの服に何百ドルもお金をかけたくない、と思っていたところ、さすがメットの女性団員さんたち!歴代の妊娠中の団員さん達が代々着て来たというマタニティのドレスを譲り受けました。

本番の日、そのドレスにお世話になった先輩方が「それってひょっとして、あのドレス?」と歴史あるその黒服にみんな気付き「私も着たのよ〜!」などと和気あいあいの会話になりました。

今週から始まるモーストリー・モーツァルト・フェスティバルのコンサートでもこのドレスが活躍しそうですが、いつかは次の妊婦団員さんにこの伝統のマタニティドレスを引き継いでいってもらえるよう、そのときまで大切にとっておこうと思います。

ニューヨークの夏の初めに野外音楽鑑賞

ニューヨークでは毎年恒例のニューヨークフィルによりパークコンサートが開催されます。マンハッタン、ブロンクス、クイーンズ、ブルックリン、そしてスタッテンアイランドの5つの地区で大きな広場のある公園へ大オーケストラが、地元聴衆へ出前コンサートをしにやってくるのです。子どもや愛犬を連れてピクニックがてら、気軽に聞きに行けるこの無料シリーズは市民に大変親しまれており、毎年たくさんの観客が集まります。

今年は6月13日にセントラルパークでのコンサートへ、バイオリン教室の生徒さんご家族と一緒に行ってきました!

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プログラム最終項目のシェーラーザードの演奏が終わる頃には夜も遅くなり、疲れて寝てしまった誰かさんもいましたが😄、コンサート修了後の恒例の花火が打ち上がるとしっかり起きて楽しめました。

日頃、お子さんを連れてコンサートへ足を運ぶのは時間的に難しいですが、夏休みはこのような野外音楽イベントが各地で開催されます。ぜひこの時期を利用してより多くのナマ演奏を聞きにいってみてください!

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今年のプログラムはリムスキー・コルサコフのシェーラーザードをメインに、その他サンサーンスや、生誕100周年の地元ニューヨークの亡き作曲家、バーンスタインの曲目が演奏されました。また、子どもの音楽教育にも力を注いでいるニューヨークフィルでは"Very Young Composers initiative"という子どものための作曲家育成プログラムをサポートしており、そこで作曲を学んだ生徒さんの曲も披露されました。

コンサートが始まる前は明るかった空は休憩時には薄暗くなり、後方にそびえるミッドタウンのビルの明かりがきれいに見えました。

 

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夏の発表会2018

6月8日に本年の夏の発表会が行われました。今回の会場はいつも使わせていただいているミッドタウンのスタジオを離れ、生徒たちの美しいバイオリンの響きを存分に聞くことのできる、ハーレムにある小さな教会に移ってみました。

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今回の発表会では下は7才から、上は16才までの6人の生徒が日頃の練習の成果を発表しました。教会の響きはやはりスタジオとは比べ物にならないほど格別だったのでこの先の発表会もこちらでやっていきたいと考えています。

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生徒達それぞれが前回の発表会に比べ、大変良い成長を遂げたと感じますが、その中で一人、一度バイオリンを辞めて戻ってきた生徒がいます。家庭の事情と成長期の悩みが渦を巻き、3年前にレッスンを辞めてしまったAちゃん。才能ある彼女が辞めてしまった時、非常に残念に感じました。複雑な状況にいる生徒を辞めさせないよう説得したくともバイオリンの先生が立ち入れる範囲を超えた状況でした。しかしこの春、心の余裕を少し取り戻した様子のAちゃんは自分の意志でまたバイオリンを始めたい、と連絡をくれました。正直なところ、数年のブランクを乗り越えて毎日の練習が本当に続けられるのか、私は半信半疑でしたが、発表会の7週前からレッスンを再開し、本番に向けて一生懸命練習をしました。たった7週間で長期ほとんど手にしなかったバイオリンの演奏をしっかりやり遂げた努力は、この先彼女の自信へとつながっていくでしょう。

コラム 〜第18回〜

長いことバイオリンなどの楽器のレッスンを続けているお子さんの中にはやめたいと時々言うお子さんがいるかと思います。今回はニューヨーク・ビズさんのウェブサイトでの掲載が最終回となるため、お子さんがバイオリンをやめる時期についてどのように対応するべきか、私の個人的な考えをお伝えしたいと思います。

こちらのコラムでも度々申し上げましたが、バイオリンを習う過程は非常に地道な練習を毎日積み重ね、それでも大きな目に見える進歩が簡単に現れるものではありません。辛抱強さが強いられる楽器です。長い年月の間に練習やレッスンが楽しく感じられる時期もあれば、どんなに頑張っても全然上手くなれない、などと感じる時期もあり、山あり谷ありのプロセスです。そんな中でお子さんがバイオリンをやめたいと思うことがあるのは自然なことです。しかし、そこで親としてどう対応するべきなのでしょう?

そこの判断はお子さんの年齢やレベル、学校の勉強、家庭事情などより、答えはそれぞれ異なります。でも、基本的に私は相当な事情がない限り、お子さんがちょっとやめたいとか、練習が苦痛でイヤだ、などと文句を言ったからといって簡単にやめさせるべきではないと考えます。子どもはまだ人生を数年しか経験していない未熟な人間です。まず、せっかくお子さんの将来のためにバイオリンレッスンに投資をしているのに、たった数年でやめるのは非常にもったいないです。3〜4年かそれ以下しかレッスンを受けなかった場合、バイオリンとしては非常に短期間で、その間に得たものは大人になる前に忘れ去られてしまうでしょう。それではせっかく投資したお金は水の泡です。

また、保護者の方や先生が簡単にやめさせてしまった生徒さんは大人になってから「やめなければよかった」と後悔の言葉を皆そろって口にします。ハーレムの音楽教室で教えていた頃、たまにそこの卒業生である若者が演奏会などに立ち寄ることがありました。教室創設者である年長の先生にする質問はみんな同じ。”Why did you let me quit ?! ?!”「どうしてやめさせてくれちゃったの?!?!」大人になった彼らは自身が子どもの頃、バイオリンを習えるという環境にどれだけ恵まれていたかを今になって実感し、理解するのです。しかし、時すでに遅し。大人になった今は大学の勉強や仕事に追われる毎日でバイオリンどころではありません。

実は私も子どもの頃の何度もやめたいと親にせがみました。毎日の練習が面倒で、放課後は友達と遊びたくてバイオリンの練習が邪魔だと感じました。しかしとても厳しかった両親は絶対にやめさせてくれず、よくケンカになりました。当時はそんな愛を理解できない少女だった私も、今では頑固な方針を貫いた両親に感謝しています。子どもの頃、毎日の練習が苦ではあったものの、バイオリンを弾き始めれば心を込めて演奏した記憶があります。そして発表会などで演奏をしたら達成感を感じ、うれしく思いました。どんなに練習が面倒だと文句を言っても、親や先生は私のそういう楽しんでいる面を見ていたのだと思います。

先生の側から見ると、まれにバイオリンをやめて他の楽器や習い事に挑戦してみた方がいいのではないか、と感じる生徒さんに出会うこともあります。レッスンに来ても体全身から弾きたくないオーラが出ている子は無理に続けさせる必要はないと思います。周囲の大人が一生懸命応援しても本当に苦痛な気持ちでバイオリンを弾く子はなんだか先生も不憫に感じますし、本人にとって生産的ではありません。

よく保護者の方に相談を受けるのは「子どもがバイオリンをやめたいと言っているけれど、やめさせてあげるべきかわからない」というもの。その生徒さんがレッスンに来た時に先生にもやめたいという意思を直接伝えたり、数週間続けて全く練習をして来なかった場合はやめ時かもしれません。でも、自宅で両親にはやめたい!と、ダダをこねても先生の前に行けばしっかり全力を発揮して音楽を楽しみ、レッスンをがんばれる子は本当にやめたいと心の芯から思っていないでしょう。この場合はやめさせないのが親の愛です。

子どもの頃からバイオリンを始めてやめずに続け、大人になった方が「バイオリンをもっと早くやめればよかった」などという話は聞いたことがありません。プロであろうが、アマチュアであろうが、楽器を弾いて音楽楽しめるという事はお金に換えられない価値があります。家庭での毎日の練習の監督も楽ではありませんが、悩んでおられるご家庭でもぜひがんばって長いこと続けていってほしいと思います。
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ニューヨーク・ビズさんでは長いこと大変お世話になりました。こちらで当教室を知ってくださった方や、コラムを毎回読んでくださる読者様も今後も教室のウェブサイトで続けていきますので、これからは直接、chihirofukuda.comやfacebookの教室ページをフォローしていただければありがたいです。

 

*このコラムはニューヨーク・ウィークリー・ビズ紙さんのオンライン版に掲載されました。

コラム 〜第17回〜

こちら米国では小中学校の音楽の授業でバイオリンなどの弦楽器を選択してグループレッスンを受けられる学校がたまにあります。70年代までは公立校でこのようなプログラムが盛んだったそうですが、80年代に政府から出される音楽教育の資金が大幅にカットされてからは珍しいことです。私がリンカーンセンターの職場で先輩方の弦楽器奏者に聞くと子どもの頃、学校の音楽の授業でバイオリンなどの弦楽器を始めたのがきっかけとなって現在プロとして活躍しているという方が何人かいらっしゃいます。

最近は小中学校の音楽を含む、アート系プログラムが大変少ないため、それを補おうと様々な非営利団体(Non Profit Organization)と公立校が組んだ教育活動が数多く行われています。こういったNPOが音楽に飢えている学校へ行ってバイオリンのグループレッスンを提供するのは一見、喜ばしいことのように思えるのですが、そこには一つ大きな落とし穴があるのです。

私自身、ニューヨーク市内でバイオリンを教えるNPO教室に10年以上所属していた経験があるため、様々な状況を目にしてきました。個人的にバイオリンを習いにいけるほど経済的な余裕のない家族にとってこのような団体は素晴らしいプログラムを提供しているといえるでしょう。しかし、残念ながら先生のクオリティーがマチマチで、必ずしも良い先生に当たるとは限らないのです。

私が以前所属していた某教室では基礎を大切にし、大人数を一斉に教えるシステムを年長の先生が確立し、若く新しい先生をトレーニングし、伝授していたため、比較的まともなグループレッスンが行われていました。私が基礎を大切にし、急がず丁寧なレッスンを基本としている現在の考え方や方針はそこでのトレーニングに大きな影響を受けたと思います。

しかし、きちんとしたシステムなどなく、トレーニングもせずに突然バイオリンを触ったことのない20人もの小学生のグループを、教える経験のほとんどない若い先生に任せてしまうNPOは非常に多いのです。こういった団体はトップで判断を下す方が音楽教育やバイオリン教育についての具体的知識もなく、先生の雇用など様々な判断を下しているからでしょう。基本的にこのような団体は「子どもへの音楽教育を発達させたい!」という素晴らしい目的を掲げて活動しているのですが、バイオリンを教えることの複雑さと子どもがバイオリンを習うことの大変さの理解に欠けているのです。また、芸術系のNPOはほとんどの場合、残念ながら資金不足でギリギリのオペレーションを続けているため、先生に支払われる賃金は安く、時給制。そのため経験豊富な先生や、才能のある先生はもっと条件の良いところへ移ってしまったり、演奏活動の幅を広げていく方向へ進みます。こういった状況のもとで学校のグループバイオリンレッスンを受けるお子さんは必ずしも安定した条件でバイオリンを習えるとは限りません。もちろん良い先生に当たることもあるでしょう。でも、無料・低価格で提供されるからといって、バイオリンを習うのに一番良い選択肢とは限らないのです。

学校で行われるグループレッスンの良い点は、クラスメートとの仲間意識が高まり、学校内のコンサートなど、共通の目標へ向かって一緒になってがんばれることでしょう。カジュアルにバイオリンを習って適当に楽しめれば良い、ということであれば学校での無料グループレッスンで充分かもしれません。しかし、お子さんにきちんとバイオリンを習わせたい、という思いがあればそれだけでは不足になるかもしれません。基本的な正しい姿勢や細かい音程などをきちんと習うには個人レッスンを強くお勧めします。

 

*このコラムはニューヨーク・ウィークリー・ビズ紙さんのオンライン版に掲載されました。

冬の発表会2017

先日12月3日、日曜日に恒例の冬の発表会を行い、無事終了いたしました。

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昨年からバイオリンを始めたちびっ子たちはすくすく育ち、何曲も弾けるようになりました。秋から当教室で教え始めた瑛子先生、そしてロンドンから転校して来たお友達も教室に加わりました。生徒たちは一生懸命練習して来た曲を真剣な表情で披露し、それぞれの成長を見ることができました。

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今回の発表会では前回大好評だったアンサンブルをより多くプログラムに加えてみました。現在8人しかいない教室で生徒たちの年齢やレベルも様々なため、それぞれにとって何かしら努力を必要とする曲を選ぶのは簡単ではありませんでしたが、なんとかみんなが楽しんで挑戦できる内容の発表会となったかと思います。ちびっ子たちが無理なく弾ける「キラキラ星」から始まり、「ちょうちょ」「子狐コンコン」などスズキ教本の第1巻の曲を数曲、少し難度のあるアイリッシュフィドリングの曲を3曲、一番上級者の2人の生徒はモーツァルトのテーブルミュージック2重奏を演奏しました。閉めにクリスマスにまつわる曲を3曲演奏し、「ジングルベル」の演奏では会場に聞きに来たご家族やお友達の皆さんに合唱参加していただきました。

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アンサンブルは一人一人が自分に割り当てられたパートをしっかり練習するだけではなく、一緒に息を合わせたり、他のパートを聞きながら時には少し音量を下げたり、音程を合わせたりします。ただ音符を正しく弾いただけではうまくまとまりません。アンサンブルや室内楽経験のまだ少ない我が生徒たちにとって良い経験になったのではないかと思います。

物価の高いマンハッタンで生徒全員が一緒に練習できる会場を見つけるのはなかなか難しく、今回、生徒さんのアパートの広いリビングルームを5回ものリハーサルに使わせていただきました。一生懸命練習する生徒たちのためにおやつまで用意してくださる配慮もありがたく、忙しいスケジュールの中、毎回送り迎えをされたご家族の協力あってのアンサンブルでした。どんなに大変なプロセスでも、締めくくりの発表会で生徒たちの成長と自信のついた顔つきを見ると、準備に時間と労力を費やしてもこれをやって良かったとつくづく感じました。

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コラム 〜第16回〜

バイオリンの練習はなぜ毎日やらなければいけないのでしょう? バイオリンに限らず、どの楽器でも練習が必要ですが、ダンサーやスポーツ選手も毎日のトレーニングを欠かせませんね。

大人ならほとんどの方がその答えをわかっているかと思います。でも、レッスンに通う小さなお子さんにとっては理解しにくいかもしれません。我が子はなかなか練習しない、とか、練習しろと注意するとケンカになるとか、家での練習を監督される保護者の皆さんには苦労されている方が多いかと思います。注意されるお子さん側はどうして毎日やらなきゃいけないのか納得いかないかもしれません。数十年の人生を経験している私たち大人にとって、上達するには練習が必要不可欠だという事はわかりきったことですが、なぜそうなのかをお子さんに説明された事はあるでしょうか? 小さなお子さんでもうまく説明すれば意外と理解し納得してくれるかもしれません。

楽器やスポーツは体を使いますが、脳がその動きを支配しています。練習を重ね、脳からのシグナルを体の動きへ繋げるのですが、そのシグナルのスピードと体の反射能力を高めるために練習の回数と頻度をある程度高め、維持することが必要です。例えば野球のバッティングの練習をするとき、打てる回数を増やすためにトレーニングをしますね。より確実に打てるよう、ボールを良く見、構える体勢、バットのスイングのフォームやタイミング、そして筋肉を鍛えなければいけないと思います。私は野球の選手ではないのですべて想像でこれらの要点を出してみましたが、それでも五つもの要素があります。毎日の練習・トレーニングはこの五つの事を同時にできるよう、脳と体のコネクションを強め、早めるために行うのです。

バイオリンの場合、姿勢よく立ち、楽器を正しい位置に構え、右手は弓を正しく持ちバランス良く弦にあて、音の強弱によって圧力や動かすスピードを調整し、左手の指を正しい位置におさえ、目で楽譜を読み、耳で音色・音程・リズム・テンポを聞く、という大変複雑なことをします。これらを全て同時にするのでかなりの集中力も必要です。もちろん、一度に全部を習得するわけではありません。初心者はまずは立つ姿勢のみ、それができたら楽器の構え方を加え、それもできるようになれば弓の持ち方を覚えます。まずはその3点を同時にできるように練習をします。この3点の「脳~体」コネクションが確立されたら次にきれいな音を出すこと、様々なリズムを弾くこと、弓の圧力やスピードの調節などを加えていき、さらに左手の指の押さえ方、音程を聞き、合っていなければ指をどのように調整して音程を直すか、といった要素を一つずつ加えていきます。

このように脳と体をつなぐ反射神経の通信回路を増やし、強化することによって演奏が上達します。何も考えず、ただむやみに練習したのでは正しい回路が敷かれませんし、週に3回くらいしか練習しなかったらなかなか回路が完成しません。また、練習を怠るとせっかく敷かれた回路は、砂浜に描いた絵と同様、徐々に波に洗い流されるように消されていってしまいます。わかりやすく言うと「体が忘れてしまう」ということです。ちなみに私が子どもの頃の両親の言いグセは「1日練習を休むと3日分の後戻り」になるから練習しなさい!でした。(苦笑)

ていねいに、毎日少しずつ、何度も練習を繰り返す事によって「脳~体」の通信回路を確実に定着させ、上達します。現在30代後半である私でも練習をしっかりしている時期と、怠けてしまったり、忙しくて練習時間の取れない時期の自身の演奏の出来具合に大きな違いを感じます。

少し難しい話かもしれませんが、こんな説明を聞けば少しは納得できるお子さんもいるのではないでしょうか? 毎日、少しでもコツコツと正しくていねいな練習を重ねれば確実に進歩できるはずです。大変と感じる日も必ずあると思いますが、くじけずがんばってください!

 

*このコラムはニューヨーク・ウィークリー・ビズ紙さんのオンライン版に掲載されました。

 

コラム 〜第15回〜

毎週、レッスン時に私が一番大切にしているのは生徒さんが自分の力で考えて問題解決をできるよう、導くことです。お家での練習をする時、先生はその場にいません。レッスン中に先生が生徒の姿勢や、弓の持ち方、音程などなどを指摘して直すことは簡単です。しかし家で練習している時に細かい間違いを指摘してくれるプロの先生はいませんね? ですから生徒さん本人が自分で考えて間違いを直していく力を付けることが大切です。

本人がどこまで自分の力で問題解決できるかは年齢や経験度によって差がありますが、どの年齢でも、一つ、二つ、何かしら自分で気付ける部分はあるはずだと私は考えます。

例えば音がギコギコしてきれいに出なかった場合。その時に“きれいな音が出ない”ということに気付くはずです。気付いていなかった場合はレッスン時にそこへ注意を導きます。そこで先生が「もっときれいな音で弾きなさい」と指摘するのは簡単なのですが、そうすると“何が問題なのか”とということに対する答えをばらしてしまうことになるので、代わりに「今の演奏でうまくいったこと、もうちょっと良くしたい部分はある?」と聞いてみます。そうすると生徒さんが自分の演奏の出来がどうだったかを考え始めます。大概この質問をすると4、5歳の幼い生徒さんでも「音がきれいに出なかった」などといった、音色に関連した返事が返ってきます。期待していた返事がなかった場合は「音色はどうだっただろう」といった質問をして考えてもらいます。するとほとんどの場合、「いい音が出なかった!」という返事が返ってきます。この答えが返って来たら一歩、進歩と考えていいでしょう。

問題を発見、把握できたら次に解決法を考えてもらいます。滑らかできれいな音にするには物理的に何に気をつけなければいけないか、1年以上レッスンを受けているお子さんならその答えを知っていますが、簡単そうで難しいものです。楽器の難しさは頭で理解していることを体の動作に繋げること。バイオリンを含め、楽器を演奏するとき、体の動きに限らず、目で楽譜を読むこと、音程・音色、リズム、テンポ等、耳で聞くことも必要なので大変複雑です。

スポーツをやるにしても同じだと思いますが、最終的にバイオリンがうまくなるには難しい部分を何度も繰り返し練習するしかありません。その難しい部分を自分で見つけ、どのような練習法で弾けるようにしていくのか、考える力を幼い時期から少しずつトレーニングして身につけることが大切です。

レッスン時に先生が「音色に気をつけてもう1回弾いてみましょう。」と最初から指摘するのは簡単で、その場の問題解決が短縮されますが、それでは生徒さん本人の考える力がなかなか育ちません。そのため、私は弾く時間が少し減っても、レッスン時に一緒に考えることに時間をかけます。そうすると、1週ごとの進歩は少しゆっくり感じられるかもしれませんが、長い目で見れば長期間の進歩は断然早くなるはずです。

やろうとしていることがなかなかうまくいかない子どもの様子を、私たち大人の目から見ると歯がゆく感じることがありますよね? そんなときに手を出して全てを助けてしまうと子どもは新しいことを覚えることができません。少し時間がかかっても急がず、忍耐強く導いてあげましょう。

 

*このコラムはニューヨーク・ウィークリー・ビズ紙さんのオンライン版に掲載されました。

新年度、秋のご報告

 カウアイ島北側のハナレイ・ベイをバックにハイキングしました。

カウアイ島北側のハナレイ・ベイをバックにハイキングしました。

私事ではありますが、今回はご報告ブログです。

まずは就職のご報告。30代後半になって就職の報告とはなんだかおかしな感じもするのですが、音楽家が演奏の場で就職できる確率は非常に低く、何才でも喜ばしい事なのです。今年1月にニューヨーク・シティ・バレエ・オーケストラのオーディションに受かり、最近トライアル期間をクリアしました。今月から正団員となり、ひとまず落ち着きました。これまであまり休みが取れませんでしたが、これからは少しは融通がきくようになるので大助かりです。

それからご存知の方もいらっしゃると思いますが、今年2月に結婚いたしまして、現在ハワイのカウアイ島にてハネムーン旅行中でございます。旦那さんはアメリカ人で、テレビプロデューサーです。テンションお高い、笑いの絶えない楽しい人です。

そんなわけで約2週間も教室を留守にしているのですが、幸い生徒たちのレッスンは大きな穴を開けずに済んでいます。

この秋から教室に仲間入りした新しい先生がいらっしゃいまして、私のいない間代わりにレッスンを担当してくださっています。細井瑛子(ほそい あきこ)先生。彼女の旦那様がコントラバス奏者で、今年からモーストリー・モーツァルト・オーケストラに入団され、その職場つながりで知り合いました。

アキ子先生は日本で幼い頃からバイオリンを習い始め、イギリスとアメリカの有名音楽院にて勉強され、国際コンクール入賞も果たしている実力派。子どものためのバイオリン音楽教育も積極的にされており、研究熱心な先生です。しっかりした先生がいてくださるので安心して生徒たちをお願いでき、大助かりです。アキ子先生について詳しくはこちらのページ、または彼女のホームページをご覧ください。

昨年仲間入りしたロビン先生は今年1年間、テネシー州のノックスヴィル・シンフォニーとの一年契約のためバイオリン教室はお休みされています。来年の秋に戻られる予定です。

 

ジャズとクラシック音楽家の訓練法

先日、ジャズ作曲家でピアニスト、そしてまたライターでもある友人の宮嶋みぎわさんのスペシャルライブを見に行く機会がありました。みぎわさんとは2014年にウィークリービズ紙さんでこちらの記事の取材・作成をしていただいたことががきっかけで知り合いました。それ以来数回ほど当教室の記事を書いてくださっています。みぎわさんが書いてくださる記事は新聞で許されている限られた文字数の中でしっかり私が伝えたいと思っているメッセージを簡潔にまとめてくださるので大変嬉しいです。彼女の音楽や、音楽教育に対する理解力の深さもそんな記事のできにつながっているのかもしれません。

日本でしっかり仕事をしてキャリアをのばしていた彼女ですが、30代後半に思い切って渡米。ニューヨークで本格的にジャズ作曲の勉強を初め、5年が経ちました。コツコツと勉強をしてきたそんな彼女は近々CDを作成するということで、それに先駆け、新曲とバンドの紹介を兼ねたライブが先日ニューヨークの大御所ジャズクラブ、バードランドにて開催されました。

私は普段、自分の演奏活動で忙しいため、他の人のコンサートに行く機会はあまりありませんし、ジャズを聞きに行くことは更にまれなのですが今回はとっても楽しめました。みぎわさんの温かい人柄が染み出るライブ。8月にレコーディングをしてCDを出すそうですから発売になった際には皆さんどうぞお買い求めください!

ちなみに久々にジャズライブを見に行って少し考えたことがあります。『ジャズミュージシャンってあんなにアドリブできてすごいなー』と。ジャズは基本のメロディと和音(コード)進行が作曲されていて、バンドメンバーが順番にソロを演奏するのですが、そのソロは楽譜に書き出されていません。その曲のコード進行に乗っ取り、演奏しているその場で自分の感性やテクニックを使ってソロを作り上げます。クラシックの音楽家は全く違う訓練を受けているので、なんかテキトウに弾いてよ!と言われるととても困ってしまうのです。

クラシックでは数百年前に作曲された音楽を、作曲家が楽譜に記したとおり、正確に演奏することが重要です。楽譜に書かれているテンポ記号、音符や音符の長さ、強弱、リズムなどなど、全てをしっかり見て正しく演奏することを訓練します。それがだんだんできるようになったら初見で正しく弾けるように訓練します。仕事をしだすと、職場でぽんっと出された楽譜でもその場で正しくすべてを弾くことを要されることもあります。

ジャズミュージシャンからは逆に『クラシックミュージシャンって楽譜をきちんと読めてすごいなー!』なんて言われることがあるので、ジャンルによって目標が違い、演奏者のトレーニング方法が違うというだけのことなのかな、と思います。同じ音楽ですが、目標と訓練法が違うだけで生み出される音楽家の強みがこれほど違うというのは面白いことだな、と思いました。

作文の題名は「バイオリン」

いつもブログやコラムに書いているとおり、当教室ではバイオリンを通して生徒さん達の日々の成長を応援しており、何よりもお子さん本人の精神的成長を大切に考えています。先日、約1年半前からレッスンに来ている生徒さんのお母様が、学校で息子さんが書いた作文を見せてくださいました。圭祐君は土曜日に日本語補習校へ通っており、そこで今年一年の目標をテーマに書いた作文なのだそうです。ご両親と本人の許可をもらって掲載させていただきました。

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まず、作文の構成がとても上手なのですが、特に感動的なのは「一つ間違えても諦めないようにしたい」という目標!バイオリン習得の道にはたくさんの壁があり、圭祐君も何度も私と共にこの1年半、それを経験し、乗り越えてきました。「一つ間違えただけで気持ちが少しくるってしまう」くらい、バイオリンは決して彼にとって簡単な楽器ではないのです。そんな中でこの「諦めないようにしたい」という気持ちが生徒さん本人から発せられたのはとっても嬉しいことです。それだけでバイオリンレッスン大成功と考えてもいいでしょう。

先生としての仕事も簡単な仕事ではありませんし、私のレッスンのやり方でどれだけ効果があるのかも計りにくいのですが、この作文はこれまでやってきたレッスンを讃えるトロフィーのように感じます。これからも、バイオリンを通して生徒さんたちの成長のお手伝いを続けて行こうと、改めて決意させられました。

コラム 〜第14回〜

発表会の季節が迫ってきました。こちら欧米では学校の年度が6月に終了となるため、夏休み前に多くの音楽教室で「End of Year Concert」などと題して、生徒たちの1年間の練習の成果を発表する会が催されます。

当バイオリン教室でも5月に発表会を予定しており、生徒たちはそれに向かって一生懸命練習に励んでいます。今回は、お子さんが発表会に出ることの大切さについてお話ししてみようと思います。

私が子どもだった頃、発表会は毎回とても緊張して心臓がバクバクした覚えがあります。新しい発表会用の服と靴を買い揃え、そこで披露する曲を何週間も練習し、磨きあげました。楽しみな反面、緊張とストレスが伴い、二つの気持ちが入り混じった子どもの頃の思い出ですが、演奏が終わった後は達成感を感じました。

発表会は一人一人のお子さんがステージに立ち、脚光を浴びて輝ける場です。楽器を習得するにあたって、このような特別な場を定期的に設けてあげることはとても大切。普段のレッスンとは違う、特別なステージに立ち、日頃の練習の成果を家族や、お友達に見せるということは、いつも以上に丁寧な練習や準備、そして集中力を要します。発表会を目標に、計画的に練習する過程も経験の一つ。時間をかけて、ていねいに磨きあげた1曲をお客さんのために披露すると自信もつきます。

また、発表会はお友達の演奏を聞くことができる場でもあるため、お互いの長所や短所から何かを見習う機会にもなります。特に、小さなお子さんが大きなお兄さん、お姉さんの演奏を見て受ける影響は非常に大きく、「あんな風に弾けるようになりたい!」と、目標になったりもします。子どもにとっては洗練されたプロの大人の演奏を見るよりも、年の近いお兄さん・お姉さんの演奏の方が、より憧れの対象になるようです。

お父さん、お母さんをはじめ、ご家族、保護者の方にとって、発表会はお子さんの成長の節目を見られる機会ですね。毎日の練習を一緒にやってみていると、あまり大きな進歩を感じられないかもしれませんが、晴れの舞台に立つ我が子を見れば、前回の発表会からどんなに成長したか一目瞭然となるはずです。

先生は生徒さんたちの準備を冷静に見守りながらも、実は少し緊張してハラハラ、ドキドキ、。でも楽しみな気持ちが入り混じった発表会。一人一人の子どもたちが自分の一番良い演奏をできるよう、レッスン時の微妙な押し加減で本番へ持っていく応援をします。本番に強い子、普段以上に素晴らしい演奏をする子、緊張する子、などなど―。日頃のレッスンでは見られない一面を見る事ができ、発表会は生徒たちのこの先の課題を考えることへもつながります。

年度末のこの時期、様々な子どものイベントが行われ、忙しい時ではありますが、発表会も家族そろって楽しんでください!

 

*このコラムはニューヨーク・ウィークリー・ビズ紙さんのオンライン版に掲載されました。

コラム 〜第13回〜

毎週、レッスンをしていると時々、生徒達の進歩がなかなか感じられないことがあるのですが、数カ月前をふり返ってみると、とても大きく成長したことに気付くことがあります。

4カ月前、バイオリンを何とか自力で構えられるようになったものの弓はまだ正しく持つことができなかったお子さんが、今では音階が弾けるようになり、初めての曲まで覚え始めています。

日々、お家で練習を見ているお父さん・お母さんなどの保護者の方から見れば、週1回しか会っていない先生と比べ、お子さんの進歩はさらにカタツムリペースに感じられることでしょう。それでも毎日、少しずつ練習を繰り返していることによって一歩一歩、着々と前へ進んでいるのです。

習得に時間のかかるバイオリンに効果的なのは、すごく小さな進歩や成果を盛大に褒めてあげることです。

例えば、前回のレッスンでは曲を演奏している間に楽器がずるずる下に傾いてしまうことを先生に指摘・注意されたお子さんが、1週間の家での練習の後、前回よりも50%良く、楽器が下を向かないよう気をつけられたら大成功。「わーっ! この間よりずいぶん楽器をちゃんと構えられるようになってきたねー!」と思いっきり褒めてあげます。もちろん、50%の改善が見られたからといって練習は終わりではありません。更に残りの半分の改善を目指し、新たな1週間の練習を応援します。

でも、このような小さな進歩を積み重ねていくことが大事です。『ちりも積もれば山となる』という諺がありますが正にそのとおりで、目標の半分しか達成できなくても、このような小さな進歩を積み重ねていけば大きな成功と自信につながります。

中途半端にたくさんの楽曲を短期間に次々にこなしていっても、基礎的な細かいテクニックや音程が未達成に終わってしまいます。そして、いつか高レベルの曲に挑戦した時にうまく弾けない部分がたくさん見つかり、基礎的な姿勢、弓の持ち方、楽器の構え方などをやり直さなければいけなくなってしまいます。

バイオリンを含め、音楽やスポーツなど何事も『量より質』です。練習する時にただただ、曲を10回通して弾いたら終わり!ではなく、難しい部分を、メトロノームを使ってゆっくり丁寧に、先生に教わったとおり5回練習して、最後に1回全体を通して弾いてみる方が確実に進歩します。

子どもが「早くこれをやりたい!」とか、「すぐできなければ飽きてしまう」と感じることは自然なことです。でも、曲をたくさんこなしていくことだけがバイオリンレッスンの目標ではありません。1曲1曲を丁寧に習得することによってより確実に上達し、小さなお子さんでも自分がどれだけうまく弾けるようになったか、自覚も出てきます。確実な成果を上げるためには、どんなに細かく小さなことでも、お子さんの練習中に何か進歩が見られたら、たくさん褒めてあげましょう!

 

*このコラムはニューヨーク・ウィークリー・ビズ紙さんオンライン版に掲載されました。

プロオーケストラのオーディション

先日、私がヴィオラで正団員として活動しているモーストリー・モーツァルト・オーケストラでオーディションがあり、審査員として参加しました。退職していったヴィオラの団員さんの席を埋めるためのオーディションです。

これまで私は、高校生の頃に受けたユースオーケストラのオーディションから数えると、大学の入試や、プロのオーケストラに入るためのオーディションまで含め、20年間も受ける側に立ってきました。プロのオーケストラ奏者としての生活を夢見る若い音楽家にとって、オーディションを受けることは生活の一部です。次はいつ、どこで、どのオーケストラのオーディションがあるか常に大学の掲示板や、労働組合(ユニオン)のウェブサイトで情報を集め、応募し、受けるオーディションの曲目リストをもらって練習し、レッスンを受け、友人達の前で試し弾きし、さらにまた練習し、フライトやホテルを予約し、受けに行く。受からなかったらまたふりだしへ戻り、繰り返す。という生活。

楽団によっては一つの席に200人の応募者が集まることもあり、そういう場合はさすがに全員の演奏を聴くことは無理なので最初にテープ審査があったりします。

モーストリー・モーツァルトは夏だけ活動する楽団なので、地元ニューヨーク近辺に住んでいる音楽家たちがオーディションに招待され、さすがに200倍という倍率にはなりませんが、それでも20〜30倍くらいの倍率なので大学入試よりは過酷です。

アメリカのほとんどの楽団のオーディションでは平等性・公平性を確保するため、受験者の年齢、性別、顔、名前が審査員にわからないよう、スクリーンが間に設置され、お互い、反対側に誰がいるのか見えません。この状態で第一、第二選考、(第三選考があることも。。。)が行われ、さらに最終選考(ファイナル・ラウンド)があり、そこまで行くとたいていスクリーンが取り払われます。この段階では審査員が受験者に音楽的注文をすることもあり、フレキシビリティを試されます。

これを自分がやってきたのか、と今振り返るとなんだか信じられない気もしてきます。特に、自分が過去に経験したスクリーンの反対側に座ると、受験者の心境を想像し、「なんて厳しいんだろう!」と思い、変に緊張してしまいました。

しかし、これから一緒にして行く仲間を選ぶ重要なオーディションですから聞く方の仕事も大変重要です。一音も聞き逃さず、何十人も受けに来る奏者の中から一番良い人を選ばなければいけません。一番うまい人たちは皆素晴らしい音楽家で、それぞれに長所・短所があり、その中から一人だけを選ぶのは結構難しいことでした。朝9時から審査が始まり、25人のオーディションを聞き、夜8時頃終了し、結果、納得のいくヴィオリストが選ばれました。

今回は良いオーディション結果でしたが、場合によっては、数日間にわたる長いオーディションプロセスの結果、誰も選ばれないこともあります。楽団の気に入る候補者が誰もいなかった場合、勝者が選ばれないことがあるのです。私は以前、他の楽団のオーディションを受け、ファイナル選考まで進出した際、私かもう一人のファイナリストのどちらかが勝つ、というところで「誰も選ばれませんでした」という結果になったことが2回もあります。その時の悔しい思い!!!!何のためにこんなに練習時間とお金をかけたんだか、ばかばかしくも感じられます。せめて誰か選んでくださいよ!と思うのですが、しかし、選ばれなかったものに抗議しても仕方ありません。次のオーディションに向けて新たな道を歩み始めます。 

プロの音楽家としての生活は時には優雅に見えるかも知れませんが、その道は大変厳しいものです。ジュリアード音楽院に入るだけでも大変ですが、そこから音楽のみで生活を支えられるようになる人はさらに数が減ります。競争の激しい現実を知りながら、それでもキャリアとしてやっていきたいと感じるほど音楽が好きな人が成功します。子どもの頃のバイオリンレッスンは少しずつ進歩し、練習が辛いときでもがんばることに意義がありますが、プロの音楽家の道はそれに加え、生活がかかってくるのでより一層、真剣さが増します。私はそれでもこの道を選んで良かったと感じます。当教室からこの道を選ぶ生徒がいつか現れるでしょうか・・・・?

コラム 〜第12回〜

このコラムでは、皆さんにあまり馴染みのないバイオリンレッスンをお子さんが受けるにあたって、役に立つ情報を載せてきました。どんな習い事をするにしてもベストを尽くしたいという気持ちで参加されるのが当たり前ですが、バイオリンは他の習い事と比べ、お金のかかる習い事ですね。レッスンは一対一の個人レッスンが基本ですし、それに加えグループレッスンやオーケストラに参加したり、もっと上達すれば音楽理論のレッスンが必要になりますし、楽器は小さな分数サイズを体の成長と共にレンタル・買い換える必要があります。

経済的に負担のかかる習い事ですが、この楽器の音色に憧れたり、バイオリンを習う事によって得られるお子さんの心身成長への効果を期待してレッスンをご希望されるご家族が後を絶たないのは嬉しいかぎりです。

前回のコラムで、お子さんに「バイオリンのレッスンを与えるという事はお子さんの将来への投資です」と書きました。これはどういう意味なのでしょう? お子さんのバイオリンレッスンにお金をかけたら、将来それが倍になって返ってくる、(と嬉しいですが…)というわけではないのはないですね。バイオリンを習得し、上達するためには何年もの期間、休まず、そして諦めずに続けなければいけません。根気を育てるには最適の楽器です。

近年、アメリカでは「ミレニアル」と呼ばれる若い世代(厳密には1984年以後に生まれた世代)が企業などに就職しても、何か上手くいかないと諦めてすぐに辞めてしまう人が増えているのだそうです。なぜこのような現象がおこっているのでしょう? この世代を育てた大人たちは、自分の子どもが成績表に最高評価の「A」をもらえなかったら先生に抗議し、そのような厄介な親は先生の話を聞き入れず、先生は論争するのが苦痛なため、生徒が正当に受けるべきより高い評価を受けてしまうのだそうです。成績表だけではありません。運動などの競技に参加すれば、ビリでゴールしても参加賞のメダルを与えられ、サッカーなどの試合をやってもスコアを記録せず、勝ち負けのない試合をやり、参加者全員がトロフィーを抱えて帰るのだとか。私が以前担当したバイオリンの生徒さんの中には、せっかく1年間しっかりと成果をあげたのに、他の習い事を試してみたいなどという理由でやめてしまうお子さんもいました。1年間バイオリンを習っただけでは大した財産になりません。10年、15年、努力を積み重ね、習い続けてこそ価値ある音楽経験・人生経験になるのです。

子どもの頃に負けることを経験しなかったミレニアル世代。負けたら次の機会に勝ちたいと思い、勝つためにはどのような努力をしなければいけないのか教わらなかったのです。B評価をもらって悔しかったなら次はもっと勉強してA評価を勝ち取るためにがんばることを経験しなかった。これは決してミレニアル達のせいではありません。紛れもなくミレニアル世代を育てた大人たちの責任なのです。

子どもに自信を持たせてあげたいという親や先生の気持ちは世界共通だと思います。思ったより成績が悪かった、とか競技で失敗してメダルをとれなかったら、悔しいという思いをバネに努力しなければいけない。周りの大人はその子が次の機会に成功できるよう導き、勉強や練習する方法を教えてサポートしてあげなければいけない。それが本当の意味で子どもの自信を育ててあげることにつながるのはないでしょうか? 私の担当している生徒さんで、最初の発表会では演奏がうまくいかず、悔しい思いをしたお子さんがいました。その悔しい思いをバネに次の発表会でうまく弾けるよう、工夫した練習方法をするよう指導した結果、その生徒さんはとってもうまく演奏できて大きな笑顔を見せてくれました。自信がついた証拠です。一度や二度失敗しても、努力すればできるようになるんだ!ということを経験し、学ぶ。このような小さな成功を積み重ねていくことがお子さんの長い人生の財産となるのです。

 

*このコラムはニューヨーク・ウィークリー・ビズ紙さんのオンライン版に掲載されました。

最近のあれこれ

まずは、私もメンバーとして参加している、昨年夏のMostly Mozart Festivalのコンサートビデオがアメリカのテレビ局、PBSよりオンラインでストリーミング中なのでご紹介いたします。昨年2016年の夏がフェスティバルの50周年記念だったため、特別番組が収録されました。収録されたナマのコンサートでは、モーツァルトが8才のときに作曲した交響曲第1番と、最後に作曲された第41番「ジュピター・シンフォニー」、そしてピアノコンチェルトという内容です。

⬇コチラのリンクからどうぞ!

モーストリー・モーツァルトの50年




次に、あまりよく知られていない、弦楽器のメンテナンスについて。

小さなお子さんは体のサイズに合った分数サイズのバイオリンを使います。その際、こちらアメリカでは短期間のみ使用する楽器をレンタルできる便利なお店がたくさんあります。当教室にいらした生徒さん達にはレンタルをお勧めしていますが、たまにお父さんが子どもの頃使っていた楽器や、お友達に譲っていただいたバイオリンなどを使用する生徒さんもいらっしゃいます。

楽器は、家と似ていて、湿気や気温に敏感ですし、使わず放っておくと部分的に壊れたり、故障したりするので、常にメンテナンスが必要です。でも、クオリティの良い楽器を購入すれば、普段から丁寧に使い、きちんとお手入れしていれば、少しのメンテナンスで何十年も使い続けることができます。お子さんが自分のお父さんやお母さんが子どもの頃に使った楽器を代々引き継いで使っていけるのは親子ともにとっても嬉しいことですね。

プロの演奏家の場合、数100万円もかけ、(時には数1000万円も!)自分に合った、高いクオリティの楽器を探します。ほとんど家探しと同じです。何ヶ月も、時には何年もかけて自分にとってパーフェクトな楽器に巡り会えるまで探し続けます。

私のヴィオラは10数年前にこちらニューヨークの楽器屋さんで巡り会った楽器を使っています。この秋、突然、音が変になってきたので調整に行きました。こういう場合、ほとんどは魂柱(こんちゅう)の調整をしてもらいます。「魂柱」とは、ヴァイオリン属の楽器において、表板と裏板を直接つなげる唯一の棒であり、これによって音が裏板まで振動し、楽器全体に音が響くようになる仕組みです。魂柱の位置の1ミリや2ミリの違いで楽器の響きが大きく変化します。この調整は楽器職人でないとできない作業です。

 新しく制作、取り付けてもらったコマ。文字は制作者の名前。

新しく制作、取り付けてもらったコマ。文字は制作者の名前。

 中に書いてある文字は製作者、製作地、製作年。中に立っている棒が魂柱。

中に書いてある文字は製作者、製作地、製作年。中に立っている棒が魂柱。

ところが今回は2回も魂柱の調整をやり直してもらったにもかかわらず、響きがどうもいつもの感じに戻らなかったのでもっと良く見てもらうことにしました。楽器の入院です。結果、コマ(ブリッジ)が古くなっているのと、魂柱自体が短くなってしまっていたとのこと。木でできているので長期間、湿気や気温の変化、そして弦の圧力に耐えてきたものが変化するのは自然なことです。そこでコマも魂柱も新しいものを作ってもらい、取り付け、調整してもらいました。💸💸💸な金額でちょっと痛かったのですが、商売道具のメンテナンスは必要不可欠。でも、おかげで楽器は良い音を取り戻し、以前よりあたたかな音が鳴るようになった気がします。

 古くななってしまってリタイヤした魂柱とコマ。文字は制作者の名前。

古くななってしまってリタイヤした魂柱とコマ。文字は制作者の名前。

使い捨てが当たり前の世の中ですが、皆さんも、楽器はきちんとお手入れして大事に、長いこと使ってくださいね。

圭祐君と綾乃ちゃんのオペラ鑑賞

こちら地元ニューヨークの誇るメトロポリタンオペラ。毎年クリスマスの時期になると子どもにもわかりやすい、「ヘンゼルとグレーテル」などのやさしいオペラを演目に出します。今年はモーツァルトの「魔笛」の短縮した英語バージョンが上演されました。オペラと言えば、普段は平均3〜4時間と長時間で、内容は古い王様や、ややこしい政治や愛の絡み合った物語、最後には誰かが死んでしまうお話が多いですし、外国語で歌われるため字幕を読まなければ何を言っているかもわからないので、馴染みのない方が多いかと思います。でも、魔笛はオペラ・ブッファと呼ばれるジャンル、わかりやすく言うとラブ・コメディなのでそんなオペラには馴染みのない人でも鑑賞しやすく、比較的シンプルなストーリー。

子どもでもわかりやすい内容で、かつ英語で上演されるオペラがあるとのことで、この機会を利用して当教室の生徒さんご一家がそろって見にいらっしゃいました。私がメトロポリタンオペラでエキストラとしてよく演奏しているので、私の出演している日を選んでお超し下さり、開演前に皆さんとピットで待ち合わせしました!

 
 綾乃ちゃんとターッチ!

綾乃ちゃんとターッチ!

 ピットへ遊びにきてくれた渡邉さんご一家

ピットへ遊びにきてくれた渡邉さんご一家

 

渡邉さんご一家は3人のお子さんがいらっしゃり、現在、上の2人、圭祐君と綾乃ちゃんがバイオリンを習っています。一番末っ子君はまだ歩き始めて数ヶ月のちびっ子ですが、お家で上の2人が練習していると一緒になってバイオリンを弾く真似をするのだそうです。このオペラにも静かにしていられるか、少し不安もあったものの、音楽を聴いている時はいつもとても静かになる正確なので、思い切って一緒に連れて来てくださいました。

このオペラを見に来る前に家であらすじを簡単に予習して来たのでストーリーを予め知った上で鑑賞。ご両親のこの配慮、素晴らしいですね!

 

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今回の短縮バージョンの魔笛は上演時間1時間45分。心配だった末っ子君も途中で泣いたりすることなく、オペラに熱中して静かに座っていたそうです。3人兄弟、そしてお父さん、お母さん、みんなとっても楽しめたようです。

皆さんも、オペラも含め、子ども向けオーケストラコンサート等、地元の楽団のウェブサイトなどで調べて足を運んでみてはいかがでしょう?

 

2017 New Year Greetings

Happy New Year to my Violin Family at Chihiro Fukuda Violin Studio!

 

I hope everyone had a nice, restful holiday.  We left last year on a high note with a successful holiday studio recital, which included 8 students, 2 teachers, and an accompanist. 

Wait, 2 teachers?!

Yes, it is not only Chihiro anymore.  We have a wonderful new teacher Robyn Quinnett, who has joined me in building a stronger and more successful violin studio.

Robyn is not only a wonderful teacher, but also a beautiful violinist.  She is a graduate of the Juilliard School, and currently pursuing her DMA at Stony Brook University.  Robyn and I met through the Opus 118 violin program in East Harlem in 2014.  She started as an intern/apprenticeship with me, and is a current teacher in the program.  Robyn has also won many awards from organizations including the Sphinx Organization, and is a founder of a chamber music and teaching festival at her home island of Montserret in the Caribbean.

When I began to think about expanding this studio, and realized I did not have enough time or energy to do so, Robyn came to mind first. I invited Robyn because of her wonderful musicianship, and natural instincts and ability of teaching.  We are very lucky to have her!  Now with her on board, I feel some of my dreams for this studio may come true!  I have exciting ideas for all students in our studio.  For starters, I will be planning an ensemble performance at the summer recital in June.  Music is made in harmony.  Music is most fun when you play in a group and “make” music together!  Given this time and what is going on around the world, I feel stronger than ever that we need to educate our children about tolerance, cooperation, and respect for one another.  Music cannot cure everything, but the experience of it can teach us something and help make the world a better place.   

Providing your child with music lessons is an investment to his/her future.  Robyn and I take that responsibility seriously, and we feel passionate about making a difference one child, one lesson at a time.  Thank you for being part of our studio, and keep your eyes out for an announcement for the June recital and ensemble rehearsals!

 

Love, Chihiro & Robyn

コラム 〜第11回〜

バイオリンのレッスンを始める適切な年齢というものはあるのでしょうか。教育・勉強熱心な日本人の方の中には色々な情報を読みあさり、バイオリンレッスンのお問い合わせをいただいた際に様々な質問をうけます。「6歳ではもう遅いでしょうか?」とか、「3歳から始めるのがいいと聞きました!」などなど。これらの情報はそれぞれに根拠はあると思いますが、それが個人個人に当てはまるかどうはケース・バイ・ケースです。

バイオリンは簡単に習得できる楽器・習い事ではありません。集中力、手や腕のコーディネーション、また、楽器を構える体力、スタミナが必要です。これらの発達には個人差が生じます。3歳で始められる子もいれば、6歳、7歳頃まで待ってから始める方が適切な子もいます。また、これまでにこちらのコラムでご紹介してきたとおり、レッスンを始めてすぐに曲が弾けないどころか、音も出せないバイオリン。地道な練習を何週間も続け、辛いと感じてもがんばれる根気が必要です。活発で常に変化や刺激の必要な小さなお子さんには向いていないかもしれません。しかし、そんな性格でもバイオリンが大好きだったら根気を育てながらがんばれるお子さんもいらっしゃるでしょう。

私がこれまでに担当してきた生徒さん達を見てきて感じるのは、まず、子ども達の発達は男女に差があるということ。女の子の方が一般的に幼少期の発達が早いです。ですから自然とバイオリンを始める適齢期が早まります。しかし、最初に申し上げたとおり、個人差がありますから、4歳で始められる男の子もいますし、6歳くらいまで待って始めた方がいい女の子もいます。張り切って、幼すぎるのにレッスンを始めてしまうと、進歩に時間がかかり、なかなか曲が弾けるようになれないので面白くない。面白くないからやめる。そんな結果になってしまうのはもったいないですね。ですから、バイオリンのレッスンを始める時期は、先生に直接会って相談する事が必要です。

反面、小学校高学年、中学生になってから始めるのは遅すぎるかと言えばそんな事はありません。バイオリンを習いたい!という強い気持ちがあるのなら是非とも習っていただきたいと思います。ただ、体の柔軟性が必要な楽器なので体がしっかり発達してから始めると、正しい姿勢に慣れるのに少々苦労する面は出て来るかもしれません。

細かい事を色々並べ立てましたが、最後に一番大切な事を申し上げたいと思います。バイオリンを含め、楽器を習わせてあげるという事は、お子さんの将来への投資です。音楽はよく『言語』の一つであるというふうに表現されます。音楽が表現・理解できれば、たとえ言葉が通じなくとも世界中の誰とでも分かち合う事ができるからです。コンクールに入賞したり、有名音楽学校に入れなければ楽器を習う価値がない、など極端な考えを持った人がまれにいらっしゃいますが、音楽は文字通り「音を楽しむ」ためのものです。バイオリンを習って弾けるようになれば、将来、この楽器と音楽を通して様々な人と知り合い、それぞれの世界を広められます。バイオリンを何歳からはじめようが、レッスンや練習に費やした時間とエネルギーは全て、価値あるお子さんの将来へつながるのです。

 

*このコラムはニューヨーク・ウィークリー・ビズ紙さんのオンライン版に掲載されました。