カーネギーホール用の仕事着

今年も毎年恒例のメトロポリタン・オペラ・オーケストラのカーネギーシリーズが5月の終わりから6月頭にかけて行われました。

普段はステージ下のピットの中であまりよく見えないところで奮闘しているオーケストラをスポットライトの中で見られる年に一度のチャンスです。

オペラオーケストラの強みはフレキシビリティと音色をブレンドするため歌手やオケ内でお互いをよく聞き合うことにあると思います。普段プッチーニ、ヴェルディ、ワーグナーなどの作品ばかり演奏しているからマーラーやメンデルスゾーン、シューベルトはあまり慣れていなそうですが、オペラオーケストラならではの才能で素晴らしい演奏をこなします。また、オーケストラの団員さん達は普段歌手の伴奏ばかりしている暗いピットから這い出してステージで脚光をあびることをとても楽しみにしています。

3公演、3人の異なる指揮者のもと、それぞれのプログラムが演奏されましたが、私がいつも楽しみにしているのはジアンドレア・ノセダ氏の指揮です。「ノセダ」と聞くと日本人のような名前に聞こえますが、イタリア人です。ノセダ氏はマーラーの交響曲第5番を指揮。リハーサルでは持ち前のユーモアを交え、団員と和やかな雰囲気を保ちながらも、ものすごい集中力とエネルギーにあふれた指揮で本番の演奏へ導きました。こんなにインスパイアされる指揮者は大勢いません。私はこのオーケストラではエキストラなので必ずしもカーネギーホール公演に参加できるわけではないので、とても幸運に感じました。

ところで、音楽家の仕事着ですがステージ上で演奏する場合と、ピットで演奏する場合黒は黒でも女性のドレスコードが少し異なります。ピットの中では特に高価な服を着る必要はなく、パンツも良し、スカートも良し。スカートの長さも膝丈か、それより長ければOK。寒い冬にはブーツを履くのも許可されています。しかしお客様に丸見えのステージ上ではそういうわけにはいきません。メットのオーケストラがカーネギーでコンサートを演奏するときは女性はドレス、または足首丈か床丈のスカート着用必須。近年ワイドパンツは許可されるようになりましたが、普通のパンツは禁止。普段、家から着ていけるような黒服ばかり着用している団員にとっては結構めんどうなのですが最低1〜2着はカーネギー用のフォーマル服をみんな持ち合わせています。

 カーネギーホール、舞台裏にて。

カーネギーホール、舞台裏にて。

私もそのような黒服をちゃんと持ち合わせているのですが、今年は妊娠しており、普通の洋服は着られないため、どうするか少し悩みました。マタニティのフォーマルの黒服をどこで見つければ良いのか?また、1〜2回来て終わりの服に何百ドルもお金をかけたくない、と思っていたところ、さすがメットの女性団員さんたち!歴代の妊娠中の団員さん達が代々着て来たというマタニティのドレスを譲り受けました。

本番の日、そのドレスにお世話になった先輩方が「それってひょっとして、あのドレス?」と歴史あるその黒服にみんな気付き「私も着たのよ〜!」などと和気あいあいの会話になりました。

今週から始まるモーストリー・モーツァルト・フェスティバルのコンサートでもこのドレスが活躍しそうですが、いつかは次の妊婦団員さんにこの伝統のマタニティドレスを引き継いでいってもらえるよう、そのときまで大切にとっておこうと思います。