コラム 〜第16回〜

バイオリンの練習はなぜ毎日やらなければいけないのでしょう? バイオリンに限らず、どの楽器でも練習が必要ですが、ダンサーやスポーツ選手も毎日のトレーニングを欠かせませんね。

大人ならほとんどの方がその答えをわかっているかと思います。でも、レッスンに通う小さなお子さんにとっては理解しにくいかもしれません。我が子はなかなか練習しない、とか、練習しろと注意するとケンカになるとか、家での練習を監督される保護者の皆さんには苦労されている方が多いかと思います。注意されるお子さん側はどうして毎日やらなきゃいけないのか納得いかないかもしれません。数十年の人生を経験している私たち大人にとって、上達するには練習が必要不可欠だという事はわかりきったことですが、なぜそうなのかをお子さんに説明された事はあるでしょうか? 小さなお子さんでもうまく説明すれば意外と理解し納得してくれるかもしれません。

楽器やスポーツは体を使いますが、脳がその動きを支配しています。練習を重ね、脳からのシグナルを体の動きへ繋げるのですが、そのシグナルのスピードと体の反射能力を高めるために練習の回数と頻度をある程度高め、維持することが必要です。例えば野球のバッティングの練習をするとき、打てる回数を増やすためにトレーニングをしますね。より確実に打てるよう、ボールを良く見、構える体勢、バットのスイングのフォームやタイミング、そして筋肉を鍛えなければいけないと思います。私は野球の選手ではないのですべて想像でこれらの要点を出してみましたが、それでも五つもの要素があります。毎日の練習・トレーニングはこの五つの事を同時にできるよう、脳と体のコネクションを強め、早めるために行うのです。

バイオリンの場合、姿勢よく立ち、楽器を正しい位置に構え、右手は弓を正しく持ちバランス良く弦にあて、音の強弱によって圧力や動かすスピードを調整し、左手の指を正しい位置におさえ、目で楽譜を読み、耳で音色・音程・リズム・テンポを聞く、という大変複雑なことをします。これらを全て同時にするのでかなりの集中力も必要です。もちろん、一度に全部を習得するわけではありません。初心者はまずは立つ姿勢のみ、それができたら楽器の構え方を加え、それもできるようになれば弓の持ち方を覚えます。まずはその3点を同時にできるように練習をします。この3点の「脳~体」コネクションが確立されたら次にきれいな音を出すこと、様々なリズムを弾くこと、弓の圧力やスピードの調節などを加えていき、さらに左手の指の押さえ方、音程を聞き、合っていなければ指をどのように調整して音程を直すか、といった要素を一つずつ加えていきます。

このように脳と体をつなぐ反射神経の通信回路を増やし、強化することによって演奏が上達します。何も考えず、ただむやみに練習したのでは正しい回路が敷かれませんし、週に3回くらいしか練習しなかったらなかなか回路が完成しません。また、練習を怠るとせっかく敷かれた回路は、砂浜に描いた絵と同様、徐々に波に洗い流されるように消されていってしまいます。わかりやすく言うと「体が忘れてしまう」ということです。ちなみに私が子どもの頃の両親の言いグセは「1日練習を休むと3日分の後戻り」になるから練習しなさい!でした。(苦笑)

ていねいに、毎日少しずつ、何度も練習を繰り返す事によって「脳~体」の通信回路を確実に定着させ、上達します。現在30代後半である私でも練習をしっかりしている時期と、怠けてしまったり、忙しくて練習時間の取れない時期の自身の演奏の出来具合に大きな違いを感じます。

少し難しい話かもしれませんが、こんな説明を聞けば少しは納得できるお子さんもいるのではないでしょうか? 毎日、少しでもコツコツと正しくていねいな練習を重ねれば確実に進歩できるはずです。大変と感じる日も必ずあると思いますが、くじけずがんばってください!

 

*このコラムはニューヨーク・ウィークリー・ビズ紙さんのオンライン版に掲載されました。