コラム 〜第12回〜

このコラムでは、皆さんにあまり馴染みのないバイオリンレッスンをお子さんが受けるにあたって、役に立つ情報を載せてきました。どんな習い事をするにしてもベストを尽くしたいという気持ちで参加されるのが当たり前ですが、バイオリンは他の習い事と比べ、お金のかかる習い事ですね。レッスンは一対一の個人レッスンが基本ですし、それに加えグループレッスンやオーケストラに参加したり、もっと上達すれば音楽理論のレッスンが必要になりますし、楽器は小さな分数サイズを体の成長と共にレンタル・買い換える必要があります。

経済的に負担のかかる習い事ですが、この楽器の音色に憧れたり、バイオリンを習う事によって得られるお子さんの心身成長への効果を期待してレッスンをご希望されるご家族が後を絶たないのは嬉しいかぎりです。

前回のコラムで、お子さんに「バイオリンのレッスンを与えるという事はお子さんの将来への投資です」と書きました。これはどういう意味なのでしょう? お子さんのバイオリンレッスンにお金をかけたら、将来それが倍になって返ってくる、(と嬉しいですが…)というわけではないのはないですね。バイオリンを習得し、上達するためには何年もの期間、休まず、そして諦めずに続けなければいけません。根気を育てるには最適の楽器です。

近年、アメリカでは「ミレニアル」と呼ばれる若い世代(厳密には1984年以後に生まれた世代)が企業などに就職しても、何か上手くいかないと諦めてすぐに辞めてしまう人が増えているのだそうです。なぜこのような現象がおこっているのでしょう? この世代を育てた大人たちは、自分の子どもが成績表に最高評価の「A」をもらえなかったら先生に抗議し、そのような厄介な親は先生の話を聞き入れず、先生は論争するのが苦痛なため、生徒が正当に受けるべきより高い評価を受けてしまうのだそうです。成績表だけではありません。運動などの競技に参加すれば、ビリでゴールしても参加賞のメダルを与えられ、サッカーなどの試合をやってもスコアを記録せず、勝ち負けのない試合をやり、参加者全員がトロフィーを抱えて帰るのだとか。私が以前担当したバイオリンの生徒さんの中には、せっかく1年間しっかりと成果をあげたのに、他の習い事を試してみたいなどという理由でやめてしまうお子さんもいました。1年間バイオリンを習っただけでは大した財産になりません。10年、15年、努力を積み重ね、習い続けてこそ価値ある音楽経験・人生経験になるのです。

子どもの頃に負けることを経験しなかったミレニアル世代。負けたら次の機会に勝ちたいと思い、勝つためにはどのような努力をしなければいけないのか教わらなかったのです。B評価をもらって悔しかったなら次はもっと勉強してA評価を勝ち取るためにがんばることを経験しなかった。これは決してミレニアル達のせいではありません。紛れもなくミレニアル世代を育てた大人たちの責任なのです。

子どもに自信を持たせてあげたいという親や先生の気持ちは世界共通だと思います。思ったより成績が悪かった、とか競技で失敗してメダルをとれなかったら、悔しいという思いをバネに努力しなければいけない。周りの大人はその子が次の機会に成功できるよう導き、勉強や練習する方法を教えてサポートしてあげなければいけない。それが本当の意味で子どもの自信を育ててあげることにつながるのはないでしょうか? 私の担当している生徒さんで、最初の発表会では演奏がうまくいかず、悔しい思いをしたお子さんがいました。その悔しい思いをバネに次の発表会でうまく弾けるよう、工夫した練習方法をするよう指導した結果、その生徒さんはとってもうまく演奏できて大きな笑顔を見せてくれました。自信がついた証拠です。一度や二度失敗しても、努力すればできるようになるんだ!ということを経験し、学ぶ。このような小さな成功を積み重ねていくことがお子さんの長い人生の財産となるのです。

 

*このコラムはニューヨーク・ウィークリー・ビズ紙さんのオンライン版に掲載されました。