コラム 〜第5回〜

日本人のご家族を相手にバイオリンを教えると勉強熱心な保護者の方が多く、こちらから説明しなくてもレッスンに一緒に通い、内容をメモしたり、ビデオを録って家で親子一緒にしっかり復習・練習して来られるので大変嬉しいことです。私はハーレムの音楽教室でも教えているため、地元アメリカ人もたくさん教えています。中にはバイオリンの先生をつかぬ間のベビーシッターのように考えてらっしゃる方もいらして、「お子さんと一緒にレッスンに通って、一緒に勉強してください」と説明しなければならない事が非常に多いです。小学校高学年か中学生くらいの、自己判断能力がある程度発達した年頃になれば生徒さんが一人でレッスンに来ても大丈夫でしょう。でも、小さいうちはそうはいきません。

アメリカ人と日本人では文化が異なるため、このような違いが出てくるのは当たり前ですが、アメリカ社会の中で子育てする日本人の皆様にはバランスを取るのが難しい事もあるようです。以前教えていた日本人の生徒さんのお母様にこんな相談を受けたことがあります。

「練習しなさいと自分の子を叱ると、アメリカ人のお友達のお母さんに『あんまりガミガミ怒ると良くないよ』と言われるんです」

当教室へバイオリンのレッスンに通い始めて何カ月か経った頃に受けた相談。このご家族は駐在で2年間のニューヨーク滞在中、お子さんを地元公立小学校に通わせ、お母様はせっせと英語のレッスンに通い、アメリカ生活に一生懸命なじむ努力をしていて非常に感心させられるご一家でした。お子さんはとっても才能があり、お母様もレッスンについて来て一緒に学び、見る見るうちにたくさんの曲を習得して上達の速いお子さんなのですが、毎日の練習は、もちろんいつも楽しいわけはなく、お母さんに何度も言われてようやくやるという感じの、言ってみればごく普通の状況。でも、好奇心旺盛で、のびのびとしていてバイオリンのレッスンに来ればしっかり集中できるので好感の持てるお子さんでした。日本で育った私から見ればごく当たり前の、遊ぶ時は存分に遊ばせ、やらねばならぬ事はケジメを付けてキチっとやらせる、バランスのとれたご家庭だと思ったのですが、アメリカの一般家庭と比べると考え方が少し違うのです。

日本人でない、地元の生徒さんで何週間も練習してこない事が続くので保護者の方に「練習できていますか?」と聞くと、「練習しろと言うとケンカになるので無理に練習させていません」「忙しくて時間がないんです」等、もはや諦めている状態の答えが返ってくる事が多いのです。せっかく大金を払って通っているレッスン。先生も一生懸命、お子さんに成功してほしいという思いで教えているのにこれでは苦労が水の泡。国や文化によってそれぞれ教育方針は違いますが、最終的にはそれぞれの家庭で一番大切なもの「プライオリティー」を決めてそれをお子さんのために一生懸命応援してあげる事が良いと思います。大人になってからの人生、楽しい事ばかりではなく、苦労する事も出てくるのでバイオリン等の習い事を通して子どもなりに勉強させてあげるのが愛なのでは? 最初は憧れで習い始めても、練習は学校の宿題と同じで楽しい作業ではありません。でも、その作業を続ける事によって最初は弾けないと思っていた曲が弾けるようになり、辛い事でもがんばって続ける、という事に意味を見出すのです。

 

*このコラムはニューヨーク・ウィークリー・ビズ紙さんのオンライン版に掲載されました。